アメリカ移民局によるL-1Bビザの審査は日々厳しくなっており、政府発表の統計データを見ても、多くの質問状の発行、また高い却下率となっています。そこで、アメリカ移民局はL-1B条件を満たすためにどのような根拠を示すべきかについて、2015年8月17日、新たな覚書を発表しました。
まず、今回発表の覚書では、L-1Bで求められる専門的知識(“specialized knowledge”)について、specialまたは advanced knowledgeのどちらかに区別して審査することとしています。
アメリカ移民局は、special knowledgeについて、ビザスポンサー会社の商品、サービス、リーチ、設備、技術、マネジメント等の知識と定義しており、同業界において一般に得られるそれら知識に比べても明確に異なり、高度に稀なものであり、国際市場で生かされるべき知識です。一方で、それら知識は、必ずしも特許や商標で守られているなど会社特有なものである必要はありません。
またadvanced knowledgeについては、ビザスポンサー会社の特定のプロセスや手順等に関する知識や専門性としており、それらは関連業界で一般に得ることのできないもので、且つ会社内においても、既に高度に培われている、または更なる発展過程にあるべきもので、複雑で高度な理解力が求められる知識と定義しています。ただ、それら知識は、スポンサー会社内において一握りの従業員のみが有する知識までは求めていません。
更に、アメリカ移民局は申請者(ビザ受益者)の専門的知識(specialized knowledge)の有無を判断する際、次の6つの項目を重要視します。
- ビザ申請条件として必要なアメリカ国外の関連会社で得た知識がアメリカのビザスポンサー会社のビジネスに対して著しく価値あるものか
- ビザ申請条件として必要なアメリカ国外の関連会社において、ビザ受益者が、その専門性及び知識を通して、会社の生産性、競争力、イメージ、財務事情を著しく強化させるような業務に関わっていたか
- ビザ申請条件として必要なアメリカ国外の関連会社での経験を通してのみ、通常得られる専門知識であるかどうか
- 膨大なコストや時間また会社として不都合を受け入れない限り、他個人に簡単に伝達または教育できないレベルのものであるか。(一般にそれら専門的知識を得るためには高度なトレーニングや長期の専門分野での職歴が必要であり、更にそれらにはコストや時間もかかるため、例えばアメリカのポジションに対し、ビザ受益者が持つような知識を持つものの任命が急務である場合、他者の現地採用には時間とコストがかかるだけでなく、ビザ受益者を必要なタイミングで派遣できないことで会社に多大な損害が及ぶ状況となるか)
- プロセスや商品の専門的知識がアメリカのビザスポンサー会社にとって特有なものでなくとも、洗練されている、複雑である、又はハイテクなものであるか
- アメリカのビザスポンサー会社の市場競争力を高めるものか
上記を踏まえ、今後L-1B申請にてサポートレターを作成する際、弊社提案として以下のような点に注意して専門知識の説明を行うべきでしょう(専門的内容を含みます)。
- Specialとadvancedの知識を明確に区別すること。Specialized、special、そしてadvancedという3つの言葉を混同しないようにしましょう(Specialized = special and/or advanced.)。
- 会社特有の知識(特許、商標、IP申請など)であることを立証できる補足資料等を提出できない限り、”proprietary(会社特有の)“という表現は使うべきではないでしょう。もちろん会社として特許等持ち、それにビザ受益者が関わっているような場合、その内容を強調すべきでしょう。
- “proprietary(会社特有の)“という表現が使えない場合、”sophisticated(洗練された)“, “complex(複雑で)” 、”highly technical(ハイテクな)“というような表現を使うと良いでしょう。
- ビザ受益者が持つ専門的知識は一握りの従業員しか持ち合わせていない場合、明確にその顕著さを数字化すべきでしょう。例えば全従業員200名のうち10名のみが持つ卓越した知識である等。
- 申請上の肩書きを通して、明確に“specialized knowledge”を持つことを連想させることも重要でしょう。申請ポジションが仮に管理職でもL-1Bの申請であれば、例えば内視鏡に関わる“Marketing Director”のL-1B申請を行う場合、”Marketing Director of Endoscopic Instruments”と具体化させると良いでしょう。
- 可能な限り同業他社また他の従業員との職務内容の違いや比較について説明すると良いでしょう。特に、なぜビザ受益者の職務内容を他従業員が遂行できないかの説明があればより効果的でしょう。
- ビザ申請条件として必要なアメリカ国外の関連会社での職務内容及びアメリカでの予定の職務内容を箇条書きで書く場合、全体を100%として、それぞれに%を割り振るべきでしょう。またビザ受益者が専門知識を必要とするポジション(技術部など)であることが分かる組織図を加えると良いでしょう。L-1Bの申請でも移民局は質問状を発行し、組織図の提出を求めることがあります。
- ビザ申請条件として必要なアメリカ国外の関連会社での職務内容及びアメリカでの予定の職務内容はより詳しく具体的に書くべきでしょう。
- ビザ受益者が成し遂げた特定業務やプロジェクトは明確にリスト化し、それらを通して具体的に金額的にいくらの功績となったかを示すこと。具体的に金額を書いた方がより効果的でしょう。
- ビザ受益者がもつライセンス、トレーニング履歴(単なる新入社員研修ではない専門的で高度なもの(OJT含む)等)について、補足資料の提出と共に説明すべきでしょう。
- アメリカのスポンサー会社のポジションで求められる専門知識を通して、ビザ受益者がトレイナーとして他従業員や同業他社に対してトレーニングを実施したことがあれば、補足書類の提出とともにその実績に関する説明を加えると良いでしょう。
- 申請上のアメリカのポジションにビザ受益者以外の新しい従業員を任命する場合、その職務遂行に必要な知識の教育にどれほどの長い時間とコスト、また会社として経済的、経営的にどれほどの損失(トレーニング自体がアメリカに存在しない場合など)がでるかを説明すると良いでしょう。
更に、最近の移民局のL-1B審査傾向の一つに、ビザ受益者の専門知識の証明に、サポートレター内だけでの説明では十分ではなく関連した立証資料をどれほど提出できるかも重要視していることが見受けられることから、この覚書の内容をしっかりと把握するとともに、より戦略的に申請書類を作成するが求められます。